検診の結果が届いて、「便潜血検査:要精密検査」の文字が目に入った瞬間。胸がドキッとして、その封筒をそっと閉じた方もいるかもしれません。
「大腸カメラを受けないといけないのは、頭ではわかっている」
「でも、怖い。お尻出すのが恥ずかしい」
「痛いのかな。もし本当にガンだったらどうしようと思うと怖くて」
外来で働いていると、こうした声を本当によく耳にします。この記事は、そんな気持ちを抱えたまま、まだ外来受診できていないあなたに向けて書きました。
先にお伝えしておくと、この記事のゴールは「怖くなくなること」ではありません。大腸カメラが怖いままでも、受診をしてもいい。そう思ってもらえたら、嬉しいです。
「怖い」と感じるのは、普通のこと

まず、いちばん大切なことをお伝えします。大腸カメラが怖いと感じるのは、おかしなことではありません。普通のことです。
怖さの中身は、人によって少しずつ違います。
・痛いのではないか、つらいのではないか
・下剤を飲んで何度もトイレに行くのが大変そう
・お尻を見られるのが恥ずかしい
・「がん」と言われるのが怖い
・仕事を休めない、時間がない
外来でも、「怖くて、1年以上そのままにしていました」と打ち明けてくださる方は珍しくありません。その後、勇気を出して受診され大腸カメラした方が、「思っていたより大丈夫でした」「もっと早く来ればよかった」とおっしゃることもよくあります。
怖いのは、あなたが自分の体を大切に思っているからこそ。弱さではありません。そのうえで、怖さの正体を一緒に見ていきましょう。
便潜血陽性は「大腸がん」という意味ではない

「陽性」という言葉の響きが強いので、がんと言われたように感じてしまうかもしれません。けれど、便潜血検査の陽性は、便に血液の反応があったという意味です。がんと診断されたわけではありません。
厚生労働省の「地域保健・健康増進事業報告」(令和5年度)をもとにした日本医師会の資料によると、大腸がん検診を受けた約338万人のうち、要精密検査(陽性)になった人は174,550人(5.16%)でした。そして、その陽性者の中から大腸がんが見つかったのは5,268人、割合にして3.02%です。
わかりやすく言うと、
・検診を受けた人の約20人に1人が、陽性
・陽性になった人のうち、大腸がんが見つかるのは約100人に3人
・約97%の人は、大腸がんではなかった
つまり、陽性になった時点で「ほとんどの人はがんではない」のです。少し肩の力を抜いてもらえたでしょうか。
ただし、ここで間違えないでほしいことがあります。「97%はがんではない」からといって、大腸カメラを受けなくていい、ということではありません。
その理由は、このあとお話しします。
よくある自己判断
陽性の連絡を受けた方が、外来でよくおっしゃる言葉があります。

2回のうち、1回だけ陽性
大腸がん検診では、2日に分けて2回採便する方法(2日法)が一般的です。「2回とも陽性ではなく、1回だけだったから大丈夫では?」と考える方は少なくありません。
日本消化器内視鏡学会は、2日法で1回だけ陽性でも、大腸カメラを受けることを推奨しています。紹介されているカナダの大規模研究では、1回だけ陽性だった人の内視鏡検査で、大腸がんが約1%、10mm以上の腺腫(がんになる可能性のあるポリープ)が約20%の人に見つかったと報告されています。
実際の大腸カメラの介助に付いていて、便潜血陽性で2回中1回陽性の方でも10mm以上のがんになりやすいポリープの方はよく見かけます。
「1回だけ」でも、がんやその手前の病気が隠れていることがあるのです。また、便潜血検査は完璧な検査ではありません。国立がん研究センターの2024年度版ガイドラインでは、大腸がんがある人が陽性になる確率は84%とされています。がんがあっても、その日たまたま出血していなければ、陰性になることがあります。だからこそ、陽性が一度でも出たときは、そのサインを見逃さないことが大切です。
痔があるから
もうひとつ多いのが、「痔があるので、血が出て陽性になったのだと思います」という声です。
たしかに、痔も陽性の原因になります。でも、痔があることと、大腸に病気がないことは、まったく別の話です。痔を持っている人にも、大腸ポリープや大腸がんは起こり得ますし、便の検査だけでは、血がどこから来たのかを区別できません。
「たぶん痔だろう」という予想が当たっているかどうかは、大腸の中を直接見てみないとわかりません。痔の場合でも、「がんではなかった」と確認できれば、それは安心につながります。
放置するとどうなるか
脅すつもりはありません。
怖い話をしたいわけではないので、事実だけをお伝えします。

精密検査(大腸カメラ)を受けない人は、意外と多い
令和5年度の報告では、大腸がん検診で要精密検査になった人のうち、実際に大腸カメラを受けた人は70.4%でした。つまり、約3割の人が結果を受け取ったあとそのままになっています。怖くて動けないのは、あなただけではありません。
検診の効果は、「見つけて、確かめる」ことで得られる
国立がん研究センターの「多目的コホート研究」では、約4万人を13年間追跡しました。その結果、過去1年間に便潜血検査を受けていた人は、受けていなかった人に比べて、大腸がんで亡くなるリスクが約0.28倍(約70%低い)でした。言い換えれば、便潜血検査を受けていなかった人は、受けていた人に比べて、大腸がんで亡くなるリスクが30%高くなります。
便潜血検査は「出血の疑い」を知らせる入り口の検査です。陽性のあとに精密検査(大腸カメラ)へ進んではじめて、病気の有無が確かめられ、必要な治療につなげることができます。検診の効果を活かすには、陽性のあとの一歩が欠かせません。
早く見つかるほど、選択肢が広がる
大腸がんは、ポリープの段階や、ごく早期の段階で見つかれば、内視鏡(大腸カメラ)で切除できます。医療機関にもよりますが、10mm以下ポリープの場合、大腸カメラ時に切除することがあります。見つかるのが遅くなるほど、治療の負担は大きくなる傾向があります。小さいポリープは当日や1泊2日で大腸カメラで切除できます。しかし、大きいポリープになりポリープが深いところまで成長すると、大腸カメラであっても切除するのに長時間を要し1週間程度の入院になったり、場合によっては手術で切除することがあります。
もちろん、「受けなかったから、必ずがんが進む」という話ではありません。ほとんどの方は、がんではないからです。ただ、陽性のサインを放置すると、「もし何かあったときに、気づくチャンスを逃す」ことになります。それだけは、お伝えしておきたいのです。
怖さを減らす3つの具体策
「怖いけれど、受けてみようかな」と少しでも思えたら、次の3つを試してみてください。

具体策1:怖い理由を確認する
ご自身が受ける予定の医療機関のホームページや電話で確認する。「痛みが心配」「恥ずかしい」「前処置(下剤)が不安」など、怖い理由をそのまま伝えて大丈夫です。医療機関によって、対応は少しずつ違います。たとえば、次のような工夫をしている施設があります。
・痛みへの不安がある場合は、鎮静剤(うとうとする、眠る薬)や鎮痛剤(痛み止め)を使える
・検査着や、プライバシーに配慮した対応をしてくれる
・下剤(腸内洗浄液)を自宅で飲む方法と、病院で飲む方法を選べる
国立がん研究センター東病院の案内でも、痛みの感じ方には個人差があり、必要に応じて薬を使うこと、鎮静剤を使った日は車や自転車を運転できず、検査後に1時間ほど休むことが紹介されています。ご自身が受ける医療機関ではどうなのか、遠慮なく聞いてみてください。
具体策2:検査の「流れ」と「安全性」を先に知っておく
怖さの多くは、「何が起こるかわからない」ことから来ます。流れを知っておくだけでも、気持ちは軽くなります。
前日~当日:夕食後からの絶食、寝る前に腸をきれいにするための下剤を飲む
検査当日 :朝から絶食、腸内洗浄液を飲み、腸内をキレイに整える。検査着に着替え、必要に応じて薬を使い、横向きに寝て検査を受ける
検査後 :着替えをして休憩し、医師から説明を受ける
安全性について、正直にお伝えします。大腸カメラでは、まれに出血や腸に穴があく(穿孔)などの偶発症(予期せぬ生じる症状)が起こることがあります。全国集計(2008~2012年)では、大腸カメラの検査および治療に伴う偶発症の頻度は0.011%(9,091人に1人)とされています 。数値は調査の方法やポリープ切除などの治療を含むかどうかで異なります 。かなり稀です。私の勤めている施設ではかなりの件数をしていますが、体感で3年に1回くらいあります。
数字は低いとはいえ、ゼロではありません。だからこそ、検査を受けるときは、体調や今飲んでいる薬(特に血をサラサラにする薬)、治療中の病気、手術歴を、必ず事前に医療機関へ伝えてください。診察に行くときに、お薬手帳持参や今までかかったことのある病気(入院歴がある、治療中)や手術歴をまとめておくことで説明しやすいです。
具体策3:まず「相談だけ」の診察から始める
「いきなり検査の日を決めるのは、まだ心の準備が…」という方は、まず診察に行ってみてください。クリニックや少し大きめの病院(2次救急)なら予約がなくても診察時間内に行けば、診察してもらえることが多いです。医療機関によっても違うので、ご自身が受ける医療機関ではどうなのか、行く前にホームページや直接電話で確認してください。
診察では、医師がこれまでの経過や不安をうかがったうえで、検査の必要性や進め方を説明してくれます。その場で検査日を決めなければいけないということはありません。決めようとしてくる医師もいるので、心が決まっていないときは「考えます」とその日は断っても大丈夫です。
・検診の結果票を持っていく
・気になること、怖いことをメモしておく
・家族や友人に、予約の電話をする日を宣言しておく(付き添ってもらえるか聞いてみるのも手です)
最初の一歩は、「検査を受ける」ではなく、「話を聞きに行く」。そう考えると、ずいぶん気が楽になりませんか。
看護師から見た、検査当日のこと

私たち看護師は、検査を受ける方がいちばん緊張している場面に立ち会います。そのときの様子をお話させてください。
検査室に入って来られると、ほとんどの方が緊張した表情です。「緊張してます」「はじめてです」とお話される方、顔がこわばり無表情、無口の方と人それぞれです。そんなときに、私たちは「緊張しますよね」とお声がけし、手順を一つずつお伝えするようにしています。
私が勤務している医療機関は鎮静剤(うとうとする薬、眠る薬)と鎮痛剤(痛み止め)を使用しているため、「検査中に目が覚めたりお腹の痛みや張りを感じたら、我慢せずに教えてください。医師に報告し、薬を追加しますね」「伝えてもらったほうが私たちも対応しやすいです。我慢されていたら大丈夫なのかと思ってしまい、対応できないので」と伝えています。
恥ずかしさについても、大抵の医療機関では検査用のパンツ(膝丈くらいの男性の水着の形)を履くので陰部は隠れます。検査着は旅館の浴衣のようなものが多いです。医療者にとっては、毎日行っている日常の検査です。初めて検査を受ける方の「不安」「心配」「恥ずかしい」という気持ちは当たり前のことです。配慮することが私たちの仕事だと思っています。だからこそ、我慢せずに思いを伝えてくださいね。
よくある不安Q&A
Q. 症状がなくても受けるべきですか?
A. はい。便潜血検査が陽性になった場合、自覚症状がなくても精密検査(大腸カメラ)が必要です。大腸がんやポリープは、早い段階では症状が出にくいことが多いためです。早期発見が大切です。
Q. 検査費用が心配です
A. 検診で陽性になった場合の精密検査(大腸カメラ)は、健康保険が使えるのが一般的です。ただし、自己負担額は人によって異なります。健康保険(3割負担)で観察のみ=見るだけの自己負担額は約5,000円〜8,000円程度です。生検(病気が疑われる部分を採取し顕微鏡検査で調べる)や大腸ポリープ切除(約2〜3万円)が目安です。医療機関によっても異なるので、事前にホームページや電話で確認し、診察時にもおおよその費用を聞いておくと安心です。
Q. しばらく様子を見て、もう一度検診を受けてからではだめですか?
A. おすすめしません。「次の検診で確認しよう」と考えている間に、時間が過ぎてしまいます。陽性が出たときは、再検診ではなく精密検査(大腸内視鏡検)へ進むのが基本です。
まとめ:怖いままでも、診察をしてもいい
最後に、この記事の内容をまとめます。
・大腸カメラが怖いのは、普通のこと。あなただけではありません
・便潜血陽性は「がん」ではなく「出血の反応」。陽性者のうち、がんが見つかる割合は約3%(令和5年度:3.02%)です
「1回だけ陽性」「痔があるから」は、よくある自己判断。大腸の中を見ないと、原因はわかりません
・陽性のあとに精密検査を受けない人は約3割。「入り口」で終わらせず、一歩進むことが大切です
・怖さを減らす方法は、「伝える」「知る」「まず相談から始める」の3つ
・「怖い」「不安」「心配」という気持ちは、無理に消さなくても大丈夫です。怖いまま、震える手で、電話をかけていいのです。外来の看護師は、そういう方に毎日お会いしています
今、この画面を閉じる前に、スマートフォンのカレンダーに「〇月〇日、病院に電話する」と入力してみてください。それが、いちばん小さくて、いちばん大きな一歩です。何でも初めてのことは、緊張も不安もいっぱいです。ほんの少しの勇気を出してみてくださいね。
引用文献
[1] 日本医師会「知っておきたいがん検診:がん検診によるがん発見データ」(厚生労働省 地域保健・健康増進事業報告に基づく)
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/data/detection/
[2] 厚生労働省「令和5年度地域保健・健康増進事業報告の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/23/dl/R05gaikyo.pdf
[3] 国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study)「大腸がん検診受診と大腸がん死亡率との関係」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/297.html
[4] 日本消化器内視鏡学会「便潜血検査で『1回だけ陽性』と言われました。内視鏡検査は受けたほうがいいのでしょうか?」
https://www.jges.net/citizen/faq/large-intestine_09
[5] 国立がん研究センター東病院「大腸内視鏡検査について」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/endoscopy/020/030/index.html
[6] 国立がん研究センター「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」公開(2024年11月27日)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/1127/index.html
※本記事は一般的な情報です。ご自身の検査結果や症状については、必ず医師にご相談ください。数値は各機関の公開時点のものです。
